「最初のヘルメットはどれを買えばいい?」は、いちばんよく聞かれる質問のひとつです。答えはだいたい同じです。グローブやブーツ、プロテクターは少しずつ買い足していけばいいのですが、ヘルメットは頭とアスファルトの間に直接入るものなので、ここだけは予算で妥協してほしくありません。
私が被ってきた2つと同じ価格帯を、人にすすめたことは一度もありません。「いちばん安いノーブランド品は買わない」と「フラッグシップを買わなければいけない」は別の話です。安さと安全は両立します。条件は、認証が読めて、保護性能に関わるところにお金をかけることです。私はまず認証を見て、次に頭に合うかを確かめます。予算を考えるのはその後です。
なぜ激安ヘルメットを買ってはいけないか
ヘルメットが衝撃を吸収するとき、主役になるのは内側にある白い発泡スチロールの衝撃吸収ライナー(EPS)です。頭が地面に当たった瞬間、まず外側の硬いシェルが衝撃をライナーの広い面積に広げ、続いてライナーが数ミリ秒のうちに潰れて、頭が減速する時間を引き延ばします。こうして脳に伝わる力が耐えられる範囲まで下がります。シェルとライナーは一緒に働いています。各国の安全試験が測っているのは、最後に頭へ伝わる力の大きさです。
ヘルメットが安全かどうかは、見た目ではわかりません。ツヤも塗装も同じで、被った感じも大差ないのに、ノーブランド品が削っているのは見えないところばかりで、しかも転倒したときに働く部分です。ライナーの密度と層構造、固定システムの強度、バックルの引張強度、量産品としての品質の安定度がそれに当たります。
いちばん安いノーブランド品には、信頼できる独立した認証がたいていありません。あったとしても、自分でラベルを貼っただけのものです。お金を払って手に入るのが、ヘルメットの形をしたプラスチックの殻だけということもあります。装備一式のなかで、ヘルメットは私がいちばん節約をすすめないものです。
三大ヘルメット規格を理解する(DOT / ECE / SNELL)
安いヘルメットを選ぶときによく目にする認証は、DOT・ECE・SNELLの3つで、試験のやり方がそれぞれ違います。DOTはメーカーの自己認証で、発売後に当局が抜き取りで試験します。ECE 22.06は、指定の試験機関で型式認可を受けてからでないと発売できません。SNELLは、Snellが自前のラボで型式を一つずつ試験します。採用している規格や公道で使える条件は地域ごとに違うので、まず自分の地域でどれが認められているかを確認してから、以下と照らし合わせてください。
DOT(米国運輸省 FMVSS 218):アメリカ市場の法的な最低基準です。衝撃吸収、耐貫通性、固定システムの強度を試験する規格で、これに適合していないとアメリカでは合法的に販売できません。DOTはメーカーの自己認証です。メーカーが自分で適合を宣言し、NHTSAが発売後に一部のモデルを抜き取って試験します。発売前に誰かが確かめてくれているわけではありません。DOTが示すのは合格ラインです。DOTしか付いていないヘルメットは、保護のレベルとしては最低限だと私は見ています。
ECE 22.06(欧州の現行基準):ヘルメットは指定の試験機関で型式認可を受け、それに通ってから発売されます。先代の22.05と比べると、22.06では回転(斜め方向)衝撃試験が新しく加わりました。直線衝撃は高・低2段階のエネルギーになり、試験速度は6 m/sから8.2 m/sまでをカバーします。決まった衝撃点に加えて、試験機関が12か所の追加ポイントから少なくとも3か所を選んで試験します。シールドには高速粒子試験が加わり、インナーバイザーも試験対象になりました。実際の事故では、斜めから入って頭を回転させる力がかかることが多く、回転衝撃試験はその状況に対応したものです。22.06にはシェルの貫通試験がありません。この項目があるのはDOTとSNELLです。
SNELL(スネル記念財団):非営利の団体で、型式を一つ残らず自前のラボで実測し、合格したものだけに認証を出します。その後も、認証済みのヘルメットを市販品から買い上げて再試験しています。試験員は試験範囲内ならどこにでも衝撃を加えることができ、ベンチレーションの穴やリベットの位置も対象です。同じ点に2回衝撃を加える試験もあります。SNELLの強みは衝撃エネルギーで、同一点への2回衝撃、シェルの貫通、チンガードの強度に要件があります。回転衝撃試験が加わったのはM2025からで、一つ前のM2020にはありません。北米で売られているSNELL認証のヘルメットには、ほとんどの場合DOTも付いています。SNELL認証そのものは、ECEへの適合を保証しません。
3つを並べたうえでの私の選び方は、DOTを最低ラインにして、独立した試験による認証をもう一つ加えることです。ECE 22.06でもSNELLでもかまいません。ECE 22.06には回転衝撃とシールドの試験があり、SNELLは衝撃エネルギー、貫通、チンガードに重点を置いています。それぞれに強みがあるので、どちらか一つあれば条件を満たします。安いヘルメットでもこの原則に合っていれば、認証の面では十分だと私は考えています。
「最低でもミドルクラス」をすすめる理由
認証は最低ラインで、そこから一段上げて最低でもミドルクラスを買うほうが、たいてい割に合います。認証が同じなら、保護性能のクラスも同じです。ミドルクラスを買う理由は被り心地にあります。快適なヘルメットなら、毎回きちんと被るようになります。
ミドルクラスで増える部分は、被るたびに体感できるものばかりです。シェルは少し軽いものが多く、長距離を走っても首が疲れにくくなります。ベンチレーションがしっかり効いて熱が抜けます。内装はフィットがよく、パッドを外して洗えます。洗える内装は蒸し暑い気候でとくにありがたく、洗えない内装は数か月もすれば臭いが出てきます。シールドの品質、曇り止めの処理、バックルの操作感も、ミドルクラスのほうがきちんとしています。
こうした快適さの差は、安全に直結します。蒸れる、重い、すぐ曇るヘルメットは、きちんと被る気をなくさせます。近場だとあごひもをしっかり締めなくなり、シールドを上げたまま走り出してしまいます。ヘルメットは正しく被ってあごひもを締めないと役に立ちません。ミドルクラスで余分に払うお金で買っているのは、重さ、ベンチレーション、静粛性、作りの良さで、どれも毎回きちんと被る気にさせてくれる条件です。
私のPOV撮影はR6にAkrapovičのマフラーという組み合わせで、カメラは車体に取り付けています。インカムやカメラマウントといったアクセサリーは後回しでかまいません。まずヘルメット本体の認証が十分で、被り心地がいいことを確かめてから、何を足すかを考えます。
安いけど安全なおすすめヘルメット(ミドルクラスの良い選択肢)
3つとも北米仕様のミドルクラスのフルフェイスで、認証は「DOTに加えてECE 22.06かSNELL」を満たしています。違いはそれぞれの方向性です。同じモデルでも、販売地域によって仕様の違うバージョンが売られていることがあり、認証もそれに合わせて変わります。ここに書いた認証、装備、定価は、3つともアメリカ市場向けのものです。ほかの地域で買うときは、ヘルメットにどの認証のラベルが貼られているかを先に確認してください。
HJC i11
3つのなかで定価がいちばん安く、アメリカ公式サイトのソリッドカラー定価はUS$169.99です。北米仕様はDOTとSNELL M2025Dの認証付きで、M2025DはSNELLの現行版です。ECE 22.06はありません。シェルはポリカーボネート複合素材で、ソリッドカラーのMサイズが約1.5 kgです。HJ-38シールドにはPinlockシート用のピンが付いていて、シートは別売りです。インナーバイザーはありません。この価格で現行版のSNELLが手に入るので、最初に挙げました。
長所
- DOTとSNELL M2025Dのダブル認証で、SNELLは現行版
- アメリカ公式サイトのソリッドカラー定価がUS$169.99で、3つのなかで最安
- HJ-38シールドはPinlock用のピン付きで、あとから曇り止めシートを足すときにシールドを替えなくていい
- トップパッドとチークパッドは外して洗え、内装にはメガネ用の溝がある
短所
- Pinlockシートは別売り
- インナーバイザーなし
- 3XL〜5XLはDOTのみ。SNELLの対象はXS〜2XLなので、大きいサイズを買う人は先に確認を
Scorpion EXO-R430
出荷時からEverClearの曇り止めコーティング付きシールドが付いています。北米仕様の認証はこちらもDOTとSNELL M2025Dで、ECE 22.06はありません。シェルはポリカーボネートで、アメリカ公式サイトのソリッドカラー定価はUS$174.95–184.95です。チークパッドはEMT緊急クイックリリース式で、内側にはインカムのスピーカーを収めるポケットがあり、内装は外して洗えます。インナーバイザーはこのモデルにもありません。Pinlockを使いたい場合は、Pinlock対応シールドとPinlockシートの両方を別に買うことになります。
長所
- DOTとSNELL M2025Dのダブル認証
- 標準のシールドにEverClearの曇り止めコーティング
- EMT緊急クイックリリース式のチークパッド。事故のとき、救急隊員がチークパッドを先に抜いてからヘルメットを脱がせられる
- 内側にスピーカーポケットがあり、インカムのスピーカーを収められる
短所
- インナーバイザーなし
- 標準のシールドは曇り止めコーティング仕様。Pinlockを使うなら、対応シールドとPinlockシートを別に買う必要がある
- 3XLと4XLはDOTのみ。SNELLの対象はXS〜XXL
Bell Lithium MIPS
ECE 22.06とMIPSは、3つのなかでこれにしかありません。MIPSはヘルメット内部にある低摩擦のスライド層で、斜めからの衝撃を受けたときにヘルメットが頭に対して10–15 mmほど滑り、回転力の一部を逃がします。北米仕様の認証はDOTとECE 22.06で、シェルはポリカーボネート、インナーバイザー付きです。アメリカ公式サイトのソリッドカラー定価はUS$239.95で、3つのなかでいちばん高くなります。
長所
- DOTとECE 22.06。この認証には回転衝撃試験が含まれる
- MIPS内蔵で、斜めの衝撃に対して回転力に備えるスライド層が一層加わる
- インナーバイザー付き。ほかの2つにはない
- 内装は外して洗え、4か所のベンチレーションはすべて閉じられる
短所
- 3つのなかでいちばん高い
- SNELLはなく、ECE 22.06とMIPSの組み合わせという路線
予算をいちばん抑えつつSNELLも欲しいならHJC i11(DOT + SNELL)。出荷時から曇り止めコーティングのシールドが付いているものがいいならScorpion EXO-R430(DOT + SNELL)。ECE 22.06にMIPSのスライド層、さらにインナーバイザーも欲しいならBell Lithium MIPS(DOT + ECE 22.06、加えてMIPS)です。3つとも「DOTを最低ラインに、ECE 22.06かSNELLを加える」という原則に合っています。MIPSはプラス要素で、認証の代わりにはなりません。Lithium MIPSが条件を満たしているのは、ECE 22.06があるからです。
ShoeiやAraiといった日本のトップブランドのエントリーモデルは評判が良く、私が以前通勤で被っていたZ-8もShoeiです。ただ、価格はたいてい一段上のクラスになり、その差額で手に入るのは主に静粛性、素材、作りの良さです。予算に余裕があってそこを重視するなら、上のクラスを見てください。手頃な金額で信頼できる認証を手に入れるのが目的なら、上の3つから選べば足ります。
頭に合うかは、ブランドより大事
どれだけ高規格のヘルメットでも、頭に合っていなければ保護性能は落ちます。ヘルメットは頭全体をぴったり包んでいてこそ、衝撃を受けたときに正しい位置にとどまります。ゆるくて動くヘルメットは、転倒した瞬間に頭の上でずれ、内側のライナーが狙った場所で働けません。ひどい場合はヘルメットごとずれたり、脱げたりします。
合っているかどうかは、あごひもを締めてから首を左右に振り、上下にうなずいて確かめます。ヘルメットが頭と一緒に動けば合っています。頭だけ回ってヘルメットがその場に残るなら、ゆるすぎです。チークパッドは両頬に当たっていても、痛むほどは押さないのが正常です。10分以上被って、どこか一点が当たり続けて痛くなるようなら合っていません。内部の形はメーカーごとに違い、私のPista GP RRは被ると幅が狭めで前後に長めです。同じサイズでもメーカーが変わると、被った感じがまるで違うことがあります。ですから、できれば最初の一つは実店舗で試着してください。サイズと自分に合う頭の形を確かめておけば、その後は同じモデルを通販で買っても安心です。
サイズは感覚で決めないでください。まず頭囲を測ります。眉の上、指一本ぶんのところから、後頭部のいちばん出ているところを通して一周です。それを各メーカーのサイズ表と照らし合わせます。新品が少しきついのは普通で、内装はしばらく被るうちに少しへたってなじみます。最初からゆるいものは被るほどゆるくなる一方で、それは大きすぎるサイズを買ったということです。サイズで迷ったら、私はゆるいほうよりきついほうを選びます。
この手の安物は、絶対に買うな
第一に、信頼できる認証が一切ないノーブランド品。表示があいまい、ブランドを調べても情報が出てこない、DOTのラベルがない、あるいは偽のラベルが貼ってある。こういうものは最初から候補に入れません。転倒したときにどうなるか判断のしようがなく、ここで節約する気にはなりません。
第二に、素性のわからない中古ヘルメット。被ったまま一度転倒したヘルメットは、内側のライナーが潰れているかもしれませんが、外からは見分けられません。素性のわからない中古は、転倒歴があるかどうかも、何年使われたかも確かめようがないので、手を出さないことをすすめます。
第三に、見た目だけの装飾用半キャップ。ライナーが入っていないものもあり、プラスチックの殻に薄いスポンジを貼っただけなので、保護性能はごく限られます。安全を気にするなら、少なくとも認証付きのジェットヘルメットを選んでください。フルフェイスならなお安心です。
第四に、ライナーの作りが粗い超低価格品。不自然なほど軽い、内側のスポンジがふにゃふにゃ、バックルを留めてもゆるい。どれも材料を削っているサインで、そのぶん保護性能も落ちています。
ヘルメットはどのくらいで交換すべき
ヘルメットの寿命について、私は2つの原則で考えています。被ったまま転倒したら交換。転倒していなければ、使い始めた日から数えて3〜5年で交換。
転倒したら交換:被った状態で衝撃を受けたら、軽い転倒に見えても、そのヘルメットは交換です。ライナーは一度きりの衝撃吸収を前提に作られていて、潰れたところは元に戻らず、次の転倒では頭を守れません。外側にひびがなくても中が無事とは限らず、ライナーの傷みは目で見てもわかりません。空のヘルメットをシートやハンドルから落とした場合は、分けて考えます。中に頭が入っていないので、ライナーにかかる力は被ったままの衝撃よりずっと小さいのですが、硬い地面に落ちれば見えない傷みが残ることはあります。まずシェルを点検し、ひびやへこみがあれば交換します。見た目に異常がなくても不安なら、メーカーか販売店に点検に出すか、そのまま買い替えてください。
3〜5年で交換:一度も転倒していないヘルメットも劣化します。欧米メーカーとSnellの目安はおよそ5年、日本の国内メーカーとSGマークは3年、HJCは3〜5年としていて、よく乗る人は短いほうに合わせます。この年数は被り始めた日から数えるもので、製造日とは関係ありません。劣化の原因は、毎日の脱ぎ被りによる摩耗、汗に含まれる酸と皮脂、紫外線、接着剤の劣化、そして熱です。最初に気づくのはたいてい、内装がへたってヘルメットがゆるくなることで、フィットが落ちれば保護性能も一緒に落ちます。乗る頻度が高く、ヘルメットを日なたに置きがちなら、交換の周期は短めに見てください。
価格を使用年数で割ってみてください。ミドルクラスのヘルメットを3〜5年使えば、1日あたりの金額はわずかです。
よくある質問
安いバイクヘルメットは本当に危険ですか?
必ずしも危険ではありません。認証を見て判断してください。ブランドを調べても情報がなく、極端に安いノーブランド品は、私なら最初から避けます。独立した試験を通っているか、内側のライナーや作りがしっかりしているかは、見た目ではわからないからです。友人には、最低でもミドルクラスを買い、DOTに加えてECE 22.06かSNELLのどちらかが付いたものを選ぶようすすめています。
DOT・ECE・SNELLのどれが一番重要?
DOTは法的な最低基準で、メーカーの自己認証です。NHTSAが発売後に抜き取りで試験します。ECE 22.06は、指定の試験機関で型式認可を受けてから発売されます。試験には回転衝撃が含まれ、直線衝撃は高・低2段階のエネルギーで行い、追加ポイントでの試験もあります。SNELLは自前のラボで型式ごとに実測し、同じ点に2回衝撃を加えるほか、シェルの貫通試験とチンガードの試験があります。ECE 22.06とSNELLにはそれぞれ強みがあり、私はDOTにどちらか一つを加えるという基準で選んでいます。
安いバイクヘルメットの予算はどれくらい?
認証を満たしたフルフェイスは、多くがミドルクラスの価格帯に収まります。アメリカ公式サイトのソリッドカラー定価で見ると、HJC i11がUS$169.99、Scorpion EXO-R430がUS$174.95–184.95、Bell Lithium MIPSがUS$239.95です。この価格帯を大きく下回るものは、信頼できる認証のないノーブランド品であることが多く、フラッグシップの価格帯は日本のトップブランドが並ぶ別のクラスです。実際の金額は地域によって違うので、お住まいの地域の販売価格で判断してください。
ヘルメットはどのくらいで交換すべき?
被ったまま転倒したら交換です。転倒していなければ、使い始めてから3〜5年で交換します。欧米メーカーとSnellの目安はおよそ5年、日本の国内メーカーとSGマークは3年なので、よく乗る人は短いほうに合わせてください。空のヘルメットを落としたときは、まずシェルを点検し、目に見える傷みがあれば交換、不安が残るなら点検に出します。